50代以降にオススメな古典文学3作。竹取物語や土佐日記を読んでみよう

50代以降にオススメな古典文学3作。竹取物語や土佐日記を読んでみよう

楽しいだけの遊びを尽くすと、人間は文化的になります。

ゲームをしてもより高度なゲームを、音楽を聴いてもより感動的なものを求めるようになります。

平安貴族も同様で、時間と財力があった彼等の遊びは文化へと昇華されていきました。

古典を読むことはまさに文化的な遊びであり、子ども時分に授業で半強制的に試験勉強をさせられたのとは別の世界がそこにはあります。

そこで今回は50代、60代以降の方にオススメな古典文学をご紹介します。

1.竹取物語

誰もが知っている物語ですが、私たちが子どもの頃に絵本で読んだものは、ほとんどが江戸時代にかぐや姫を主人公に書き直したものの系統です。

古典の竹取物語は部分的にはかぐや姫が主人公ですが、全体としては竹取の翁が娘を得て失っていく物語です。

あらすじは、五人の貴公子の求婚が失敗して没落し、ついには天皇までもが失恋して腑抜けに成るというご存じのものですから、読み進めるのも比較的に容易です。

おそらくは童話のように読まれて来た物語ですが、江戸時代の研究で没落していく五人の貴公子の名は672年(弘文1)の壬申の乱で功績のあった者たちの名前がそのまま、あるいはほのめかすような形で使われていることが明らかにされています。

つまり、乱の勝者の天武天皇への批判を潜めた反骨的な作品です。

もちろん物語の魅力はそのような反骨精神とは無関係のところにも溢れているために、読み継がれて来ました。

50代を過ぎて自分や身近な子どもが結婚していく世代になって読み返してみると、おじいさんやおばあさんの気持ちが良く分かります。

その表現の密度の濃さに改めて感激できるでしょう。

成立は九世紀末から十世紀初頭で、日本最古の作り物語です。

作者は未詳ですが、今後も解明される可能性が残っています。

源氏物語には「物語の祖(おや)」と記され、当時から作り物語という新ジャンルを切り拓いた作品として高く評価されていたことが分かっています。

2.伊勢物語

色男の在原業平をモデルとした物語です。

どうしても色男の自慢話めいた章段が有名ですが、さまざまな女性との遍歴の後には、かつて愛した女性への情愛に生きる「男」が描かれています。

主人公のモデルの在原業平は阿保親王の子で、藤原氏が存在しなければ権力の中枢にいたはずでした。

しかし他の皇族や藤原氏以外の貴族と同様に圧迫され、伊勢物語には反藤原氏的な側面もあります。

伊勢物語の成立には複数段階説があります。

まずは業平の実伝を基に原型が作られ、古今和歌集の成立の後に補充が成され、さらに拡充して現在の形に成ったとされています。

そのために実在の業平を主人公とする一貫性が崩れてはいますが、その分さまざまな男女の恋愛の姿が描かれています。

伊勢物語は竹取物語が創造した「作り物語」を受け、新たに「歌物語」というジャンルを創りました。

読み始めは和歌の解釈に少し苦しむかもしれませんが、特に掛詞(かけことば)という同音異義語の言葉遊びを意識すれば読み進められるでしょう。

最初のうちは和歌の分からない部分は読み流しても大丈夫です。

半分を過ぎる頃には、現代語訳や注釈が理解できるようになっていきます。

伊勢物語は京都・奈良・神戸などの地が描かれ、文学散歩にも向いています。

伊勢物語を持って旅に出て、その場で読むという楽しみも味わえる短編集です。

一つの話が短いため、集中して読むことができます。

自分で歌を詠んでみるのも面白いでしょう。

在原業平は紀貫之によって「その心余りて言葉足らず」(「古今和歌集」仮名序)と評されています。

これは複雑な「言葉」遣いのない情熱的な歌風とも言え、和歌の入門にも好適です。

3.土佐日記

作者の紀貫之は紛れもなく「男」です。

その貫之が女性のふりをして語っているのが土佐日記です。

日記と言っても現代のもののように自分のために書く秘密のものではなく、日記形式を借りた物語になっています。

土佐日記のメインテーマは二つで、表層の早く京都に帰りたいという望郷の念の下層には、土佐で喪った娘への哀悼の念があります。

貫之は遣唐使廃止後に盛り上がってきた国風文化を生き、その精髓たる古今和歌集の編集長を務め、その功績で晩年に土佐国司に任じられました。

当時の地方官は任地で民衆から搾取の限りを尽くし、民衆からは憎悪の対象でした。

しかし貫之は善政を行い、惜しまれつつ土佐を去りました。

在任中は海賊退治を強行するなどした立派な「男」でした。

土佐日記には帰路の他国で海賊に怯える女性の「私」なども描かれていますが、そこには海賊をのさばらせている他国への貫之の批判意識も潜んでいるようです。

当時の貴族の日記は男性貴族が宮中での行事について、子どもが跡を継いだ時のために注意点などを記録したもので、漢文で書かれていました。

貫之は娘への哀悼という、男性には女々しくも思われるテーマを、女性に仮託した語りによって成し、日記文学という新ジャンルを創りました。

このあまりに画期的な試みは当時の男性には真似できず、以後、蜻蛉日記、紫式部日記、更級日記と女性のみによって引き継がれていきました。

興味のある古典文学から手を付けてみよう

初学の方は、文法などは気にせずに先に現代語訳を読んでしまうような形で読み進めることをオススメします。

当初は現代語訳を一文読んだら指で該当個所を押さえ、古典を一文読んで先に進むようにしましょう。

ただし、和歌は二回以上は読みましょう。

できれば音読しましょう。

小学館の日本古典文学全集のように口語訳との対照がしやすいレイアウトの物も、たいがいの公共図書館にあります。

古くても新しい、古典の世界があなたにも拓けてきます。

ご紹介した竹取物語、伊勢物語、土佐日記は上述のように新たなジャンルを切り拓いた画期的な作品であり、そのポテンシャルの高さは知らぬうちに瘉しばかりでなく活力をも与えてくれます。